カカオの需要が世界的に高まっているのは当然です。カカオは世界で最も愛されているお菓子のひとつ、チョコレートには欠かせない原材料だからです。
しかし、このように市場が活況を呈しているにもかかわらず、カカオ生産者の3分の2は1日2ドル以下で生活しています。このように貧困に追い込まれているので、カカオ生産者の家庭では、子どもたちを学校に行かせることができず、農園を手伝わせたり、より肥沃な土地を求め森林保護区域に引っ越したりしています。
これらの課題に対処するため、レインフォレスト・アライアンスは、世界のカカオの70%を生産する西アフリカを中心に、約100万戸のカカオ生産者と連携し、認証及び研修を通じて、豊かな暮らしを構築し、気候変動への耐性を強化しています。また、私たちの認証プログラムは、長年の経験に基づいた思慮に富み、包括的で、テクノロジーやデータを導入したアプローチで、子どもの就労や森林破壊といった作物部門固有の問題にも取り組んでいます。
レインフォレスト・アライアンスは、常に介入策の改善に尽力しており、2019年以降、西・中央アフリカの審査強化と認証農業者への支援を強化するための追加対策を講じました。また、私たちの認証要件を満たせるよう、最も支援を必要とする西・中央アフリカの農業者を援助するため、500万米ドルのアフリカ・カカオ基金で尽力してきました。
人権:カカオ農園で子どもを就労させないための包括的アプローチ
コートジボワールとガーナだけで、約150万人の子どもたちがカカオ生産で働かされています。
レインフォレスト・アライアンス認証農園では、これまで子どもの就労は常に禁止されてきました。しかし、長年の認証活動の中で、単に子どもの就労を禁止するというだけでは不十分であることが分かってきました。
そこで、私たちの認証プログラムでは、より包括的アプローチで児童労働問題に取り組むのに、「事前評価対処方式」と呼ばれる方法を行っています。このプログラムでは、認証農園や加工施設で、子どもの就労を防止・監視できるよう社内委員会を設置することが必要で、また万が一事例が認められた場合、迅速な是正が求められます。(また、農園ではそのための研修も実施されています)。審査員は、本農園の設立過程を評価し、審査の際に子どもを就労させる恐れがないか確認します。
コートジボワール南部にある、女性中心となって活動しているカカオ協同組合では、特にアフリカ・カカオ基金からの資金援助を組み合わせた場合、事前評価対処方式は非常に効果があることが分かりました。フラテルニテ・ダドゾペ (Fraternité d’Adzopé) 農業組合(=SCAFRA)の理事長であるコール・ミンリエンヌ(Kole Minrienne)氏の説明によると、この基金によって、組合員が子どもの就労のリスクを理解し、軽減していけるよう研修を受け、団体内での啓発活動を実行することができ、また現地の家族に就学児童がいるかどうかの調査ができるようになっています。最後には、当基金では組合員の家族の所得を増やせるよう、3,000羽の雌鶏の購入を支援しました。そのお金で、親は(子どもを使わずに)農作業を手伝ってくれる人を雇ったり、学費を払ったりすることができるのです。ミンリエンヌ氏は、「アフリカ・カカオ基金にはとても助けられました」と話していました。
また、強制労働、差別、職場での暴力やハラスメントについても、事前評価対処方式を行っています。
森林を守る:認証審査の画期的な進歩
コートジボワールとガーナは、両国合わせて世界のカカオの約3分の2を生産していますが、2002年~2019年の間に、原生林を(それぞれ)25%、8%喪失しました。カカオ栽培が、この森林損失の大きな要因となっています。
レインフォレスト・アライアンスでは、カカオ農園が森林まで入り込むことがないよう、農園と森林の境界線をGPSによる地図と衛星画像で確認するという、認証審査では画期的な取り組みが行われています。以前は審査員には、どこまでがカカオ農園の区画で、どこからが森林なのかという情報がありませんでした。現在では、 2020認証プログラムで、すべての認証農園にGPSの位置情報の提供を義務付けています。そして、私たちは、その地図と、カカオ生産地域の森林破壊のホットスポットを特定するのに作成した専用リスクマップを相互参照しています。これにより、審査員は森林消失の可能性をより的確に把握し、万が一、消失した場合には迅速に対応することができます。また、審査前に準備ができるよう生産者団体を訪問し、必要に応じて是正措置を講ずることができるよう支援しています。
また、当プログラムでは、農業者に森林保護だけでなく、農地や周辺に在来樹木を増やすよう求めたり、またカカオ栽培に日陰樹を植樹するアグロフォレストリーなど、生物多様性に配慮したその他の対策も推進しています。
カカオ部門の課題を根本から解決する:農業者の暮らしの向上
児童労働と森林破壊の最も大きな要因は貧困です。カカオ生産者は、スーパーマーケットで売られているチョコレートバーのわずか6%分の収入しか受け取っていません。生産者はサプライチェーンでも負け組で、ずっと低価格の矢面に立っています。
弊団体の認証プログラムに含まれている、より持続可能な農法を導入することは、農業者の所得を向上させる一つの方法です。例えば、手作業や自然の害虫駆除技術を用いることで、農業者は高価な農薬を購入することもなく、より健全な土壌を作ることができ、土壌が良くなればそれだけ収穫量も増えるので、農業者はコスト削減と所得向上の両方を実現させることができます。実際、2018年から2020年までに発表された3つの研究*によると、ガーナとコートジボワールの認証カカオ農園の所得は、非認証農園の所得よりも平均で40%高いことが分かっています。
また、このプログラムには、より良い農場管理実践に関する要件も含まれています。また、レインフォレスト・アライアンスは、農業者が自分たちの環境下にある経済的なリスクや機会をより包括的に確認できるよう支援しています。例えば、私たちのプログラムでは、農場段階のデータをデジタル化するツールを提供(その使用が必要)することで、農業者が成果を分析し、より的確な経営判断を行うことができますまた、農園リスク評価ツールは、生産者団体が気候の影響などのリスクに基づいて管理計画を立てるのに役立ちます。また、農業者がどのように生計を立てているかというデータを収集することで、収益の向上や収入源の多様化を検討することもできます。
カカオの市場価格が低いことを考えると、持続可能性を高めるためのコストは、農業者が負担できるコストより高くなります。また、認証費用を満たす負担が、すでに貧困に追いやられている農業者にこれほど重くのしかかるものはありません。サプライチェーンの不公平性に対処するため、私たちのプログラムに参加するカカオのバイヤーは、サステイナビリティ投資を行い、最低以上のサステイナビリティ差額(市場価格以上の追加現金支払い)を認証農場に支払うことが義務付けられています。
気候変動に対する回復力を養う
干ばつや害虫、病気は、カカオ豆の収穫を減少させ、不作の年は、すでに苦しい生活を強いられているカカオ農業者にとっては、壊滅的な打撃を受けることになるかもしれません。
私たちの認証プログラムの気候変動に対応した手法は、気候変動がもたらす脅威に立ち向かう農業者を支援します。気候の問題は地域によって異なるため、農業者はまず自身の気候固有のリスクと脆弱性を特定するための評価を行い、次に自分たちのニーズに合ったプログラムの実践に取り組みます。例えば、インドネシアのカカオ生産者は、乾季が長引いたり、異常気象に悩まされているので、熱ストレスや土壌浸食を最小限に抑えるため、被覆作物を植えたり、その土地に適した日陰樹を植えるなどの方法が取られているようです。
また、農場研修で取り上げている別の気候変動に対応した戦略は多様性で、気候変動リスクを分散させるのに役立ちます。農業者は、様々な種類の作物を育てたり、動物を飼育したり、養蜂するなどして収入源を多様化し、そうすることで農業の予測不可能な事態を回避することができます。
強化されたカカオプログラム
弊団体では、2019年からカカオプログラムを強化するための追加対策を開始し、リスクを特定・管理するために優れたシステムを設置し、認証要件を満たせないリスクの高い農園を対象とした審査を実施し、また森林の消失や児童労働問題に対し農業者の意識向上を図ることができたことをご報告致します。アフリカ・カカオ基金は、持続可能性を高め、認証要件を満たそうとする農園を引き続き支援していきます。
レインフォレスト・アライアンスは、西アフリカをはじめとする世界中のカカオ農業者の幸福やその土地の健全性を向上させるために、今後も尽力していきます。